就業規則を作成していると、経営者からさまざまな疑問が飛んできます。「制服への着替え時間は労働時間に含まれるの?」「有給休暇の申請や退職の申し出は、1か月前までに言ってほしい」——。こうした声は、法律論だけでは語りきれない、経営の現場ならではのリアルな悩みです。今回は、そんな「法律と現場のはざま」にある問題を、少し違う角度から考えてみたいと思います。
目次
経営者の本音と法律の現実
経営者の本音としては、「着替え時間はできれば労働時間として認めたくない」「有給や退職の申し出は早めにしてほしい」というものがあります。気持ちは十分わかります。しかし現実には、法律はそうした経営者の意向とは逆の方向を向いていることが多いのです。
たとえば着替え時間について言えば、業務に必要な制服への着替えは「使用者の指揮命令下に置かれている時間」と判断されるケースが多く、労働時間に含まれる可能性があります。また退職の申し出については、民法上は2週間前でも有効とされており、「1か月前」を一方的に強制することは難しいのが実情です。
「社内ルール」という選択肢を活用しよう
「じゃあ、経営者は何もできないのか?」——そんなことはありません。法律を土台にしながら、社内ルールとして提案・運用していくアプローチが有効です。
たとえば退職の申し出について、「1か月前までに申し出ること」を就業規則に明記することは可能です。法的な強制力には限界がありますが、会社としての「お願いベースのルール」として周知し、社員に協力を求める形は十分に機能します。引き継ぎや後任採用のことを考えれば、社員自身も理解してくれることが多いでしょう。
着替え時間についても、「労働時間と認める代わりに、5分以内でお願いします」というルールを設けることができます。「認めない!」と意地を張るよりも、認めたうえでルールを設ける方が、社員との信頼関係を保ちながら現実的な運用ができます。伝え方ひとつで、職場の雰囲気はずいぶん変わるものです。
社内ルールを活かすために絶対に必要なこと
社内ルールを決めたとして、それを破った社員を懲戒処分にするかどうかは、状況によって判断が分かれます。しかし、それ以前にもっと大切なことがあります。それは、「決めたルールを会社が守る気概を見せること」です。
社員に「ルールを守ってほしい」と言いながら、会社側がそのルールを無視したり、有名無実化させてしまったりすると、一瞬で信用を失います。逆に、「会社は社員の権利もルールも大切にしている」という姿勢を日々の行動で示せれば、社内ルールは少しずつ浸透していきます。言葉ではなく、行動で示すことが何より重要です。
「自分がされて困ることは、自分もしない」という文化を
子どもが突然熱を出した、急な家族の入院があった——そうしたイレギュラーな事情での休みは、お互いさまです。しかし、「明日から1週間、旅行に行ってきます」と突然言われて困るのは、経営者だけではありません。一緒に働く仲間も困るのです。
「自分がやられて嫌なことは、自分もしない」——そんなシンプルな意識が職場全体に広がれば、ルールを強制しなくても、自然と社内の秩序は保たれていきます。就業規則やルールは、そういった職場文化を育てるための「土台」として機能するものだと思っています。
法律をベースに、現場に落とし込む
就業規則の整備において、法律論だけを追いかけていると、どこか味気なくなってしまいます。「法律上はこうだから、それに従え」では、社員の心は動きません。
大切なのは、法律をきちんと踏まえたうえで、「なぜこのルールが必要なのか」「互いにとってどんなメリットがあるのか」を丁寧に伝え、現場に落とし込んでいくことです。そのプロセスこそが、会社への信頼を育て、働きやすい職場づくりにつながっていきます。
就業規則は、作って終わりではありません。運用し、育て、会社と社員がともに守っていくもの。そのための第一歩として、「法律+現場の視点」を大切にしていただければと思います。
