前回は、入職直後の数か月を乗り越えるための短期的な施策として、「声かけを仕組みにすること」と「サポート役を複数名設けること」をお伝えしました。今回は、1年を目安に取り組む中期的な施策についてお話しします。
短期の施策で「ここに居ていい」と感じてもらうことができたとしても、それだけでは長く働き続けてもらうには十分ではありません。スタッフが定着するためには、もうひとつの感覚が必要です。それが「自分はここに貢献できている」という実感と、「この職場の先が見える」という安心感です。
この2つを育てるために、中期的な視点で取り組みたいのが「期待と成長の言語化」です。
「後出しじゃんけん」になっていませんか?
スタッフが一生懸命働いているのに、なぜか評価されている実感が持てない——そんな状況が続くと、やる気は少しずつ失われていきます。その原因の多くは、「こういった働き方を期待しているよ」という言葉が、最初から伝わっていないことにあります。
後から「実はあなたにこれを期待していたのに…」と言われても、スタッフにとっては「後出しじゃんけん」になってしまいます。頑張っていたつもりなのに、求められていたことが違った——このすれ違いが、静かな離職意欲につながることは少なくありません。
採用時や入職直後に、「あなたにこういうことを期待している」と丁寧に言語化して伝えること。これが、すれ違いを防ぐ最も確実な方法です。難しく考える必要はありません。「半年後にはこの業務を一人でできるようになってほしい」「患者さんへの声かけを意識してほしい」——そうした具体的な言葉で十分です。
業務マニュアルは「管理ツール」ではなく「安心ツール」
期待を伝えることと合わせて取り組みたいのが、業務マニュアルの整備です。手順が明文化されていると、新人は「自分のやり方が合っているか」を自分で確認できます。「これで合っているのかな」という不安が減るだけで、仕事への取り組み方は大きく変わります。
「マニュアルを作るのは大変」と感じる方もいるかもしれませんが、今はAIを活用すれば短時間で下地を作ることができます。また、スタッフの力を借りながら一緒に作っていくプロセス自体が、チームの一体感を生むという効果もあります。「自分たちの職場のルールを自分たちで作った」という感覚は、職場への愛着につながります。
マニュアルは完璧なものを目指す必要はありません。現場の実態に合った、使えるものを少しずつ積み上げていくことが大切です。
「小さな成長」を言葉で伝える習慣を持つ
中期的な施策の中で、最もシンプルかつ効果的なのが「成長を言葉で伝える」ことです。
人は誰でも、自分が成長していることを実感したいと思っています。しかし、日々の忙しさの中では、自分の成長を自分で認識するのは難しいものです。だからこそ、管理者が言葉で伝えることに意味があります。
「最近、お客様のやりとりがスムーズになったね」「先月より確実に動けている」——こうした具体的な言葉を定期的に伝えることで、スタッフは「自分は成長している」「この職場で力がついている」と感じることができます。これが、長く働き続けようとする強力な動機になります。
評価面談や個別面談の機会を定期的に設け、業務の振り返りと成長の確認をする習慣をつけることをお勧めします。月に1回、15分程度でも構いません。「ちゃんと見てもらえている」という感覚が、スタッフの安心感を支えます。
「期待」と「成長」の見える化が定着をつくる
中期的な施策のポイントをまとめると、「期待を事前に言語化する」「マニュアルで業務を見える化する」「成長を定期的に言葉で伝える」の3つです。
いずれも特別なコストはかかりません。必要なのは、意識と習慣です。「伝えたつもり」「わかっているはず」という思い込みを手放し、言葉にして伝えることを続けること——それが、1年後のスタッフの定着率に確実につながっていきます。
次回は、3〜5年という長期的な視点で取り組む「選ばれる職場づくり」についてお伝えします。
