2025年6月、「通称トラック新法」が成立し、運送業界はいま大きな転換期を迎えています。これまで当たり前だった「安く、無理して、法令ギリギリで」という働き方は通用しなくなりつつあり、そうした体制を続ける会社は今後淘汰されていく可能性があります。
一方で、「じゃあどうやってドライバーを確保すればいいのか」「賃金を上げたいけど、間違ったら怖い」と不安を感じている経営者の方も多いのではないでしょうか。
今回は、社会保険労務士として数多くの運送会社の賃金制度に関わってきた経験をもとに、ドライバー確保のための賃上げ戦略・3つのポイントをお伝えします。
目次
ポイント①:安易に基本給を上げるのは危険
「長年頑張ってくれているドライバーに報いたい」「いい会社にするために基本給をグッと上げたい」——そうお考えの経営者の方は多いと思います。その気持ちは、とても大切なことです。
しかし、ここで注意が必要です。運送業界は現在も「未払い残業代」のリスクが非常に高い業界です。基本給を安易に引き上げると、その金額をもとに計算される残業代の請求額も大きく膨らみます。試算によっては、賃上げ前と比べて未払い残業代の請求額が100万〜200万円以上増えるケースも珍しくありません。
大切なのは、「上げるかどうか」ではなく、「どういう形で上げるか」を慎重に設計することです。賃上げは会社の想いを形にする大事な行動だからこそ、リスクも踏まえた上で進める必要があります。
ポイント②:他社のマネではなく、”自社の答え”を探す
「隣の会社が月給30万にしたらしい」「同業者は歩合を増やしたって」——こうした情報が入ってくると、「うちもそうしなければ取り残されてしまうのでは」と焦りを感じるものです。
しかし、これまで何十社もの運送会社の賃金制度に携わってきた中で感じるのは、「まったく同じ制度だった会社は一社もない」ということです。運ぶ荷物も、走る距離も、契約先も、会社ごとにまったく異なります。だからこそ、「賃金制度の正解」は一つではありません。
大切なのは、自社の原価・働き方・配車体制をしっかり見直した上で、「自社にとって無理なく、かつ魅力的な賃金制度」を設計することです。すぐに答えは出なくて構いません。シミュレーションを繰り返しながら、じっくり取り組む価値のある課題です。
ポイント③:制度を作ったら、必ず「伝える」こと
苦労して賃金制度を整え、原資もしっかり確保した。リスクも踏まえて、納得のいく仕組みに仕上げた——しかし、ドライバーがその制度を「知らなければ」、すべて意味がありません。
実際に過去の労働トラブルや裁判でも、「制度の周知がなされていなかった」ことが争点になったケースは少なくありません。「分かってくれているはず」という思い込みは、非常に危険です。
賃金制度を整えたら、必ず説明会を開きましょう。資料を用意し、質問を受け付け、何度でも伝える機会を設けることが大切です。ドライバーが制度を理解し、納得し、信頼してくれること——それが未払い残業代リスクを回避する上でも、最も重要な一歩になります。
まとめ:新しい法律は、会社を良くするチャンス
新しい法律ができると、不安を感じるのは当然です。しかしこの変化は同時に、「会社を良くするチャンス」でもあります。適正原価の考え方が広がり、ようやくドライバーにきちんと還元できる時代がやってきました。
- 賃上げの「形」を慎重に設計する
- 他社ではなく、自社に合った制度を作る
- 作った制度を、きちんとドライバーに伝える
大切なのは、大きな変化ではなく小さな一歩です。「これまで安く請けるしかなかった」と我慢してきた経営者の方こそ、このタイミングで賃金戦略を見直してみてください。目の前のドライバーに安心してもらえる職場づくりが、長期的な人材確保にもつながります。
