運送会社の歩合給、「もう認められない」は本当か~4つの判決から考える出来高払制賃金

運送会社の歩合給、「もう認められない」は本当か~4つの判決から考える出来高払制賃金

運送会社の未払い残業代裁判で、必ずといっていいほど争点になるのが「この会社の賃金制度は、出来高払制賃金にあたるのか、それとも通常の月給と同じ扱いなのか」という問題です。この区分によって、残業代の計算方法がまったく変わるため、金額に大きな差が生じます。

令和6年5月15日、東京高裁で引っ越し会社を被告とする判決が出され、複数の手当について出来高払制賃金にあたらないとの判断が示されました。この判決の影響は大きく、「今後、ドライバーの歩合給は認められない」という情報発信をする専門家が一気に増えたように感じています。

しかし、その後に出された判決を見ていくと、様相は少し異なります。今回は、引っ越し会社の裁判を含む4つの判決を比較しながら、運送会社の歩合給がどのように判断されているのかを整理してみたいと思います。

1.出発点となった引っ越し会社の事件(東京高裁 令和6年5月15日)

この事件では、引っ越し作業員に支給されていた複数の手当について、会社側が「出来高払制賃金にあたる」と主張しましたが、東京高裁はこれを認めませんでした。作業量が増えても賃金に反映される仕組みになっていなかったことなどが理由とされています。

出来高払制賃金と月給制とでは、残業代の計算方法(時間単価の算出方法や割増率の適用範囲)が異なり、出来高払制の方が会社側の残業代負担が軽くなる仕組みになっています。そのため、この判決は「見せかけの歩合給に歯止めをかけるもの」として、引っ越し業界にとどまらず、運送業界全体に大きなインパクトを与えました。

2.その後に出た3つの判決は、いずれも歩合給を認めている

①北海道の運送会社の事件(札幌地裁 令和8年3月25日)

以前のブログでも取り上げた事件です。この会社の評価給・歩合は、荷主からの収受運賃から高速代・フェリー代を控除した「売上」に、あらかじめ定められた割合を乗じて算出される仕組みでした。裁判所は「出来高払制賃金とは、労働時間ではなく、労働者が現に行った一定の労働給付の結果又は一定の出来高という仕事の成果に応じて定められた賃金」であるとしたうえで、この算出方法は出来高払制賃金にあたると判断しています。

労働者側は「売上は会社が独自に決めるもので、作業量や運転距離と一致しない」とも主張しましたが、裁判所は「会社が売上を恣意的に操作していると認める証拠はなく、作業量や運転距離との厳密な比例関係までは求められない」としてこれを退けました。また、労働基準法27条の保障給についても、日額の基本給や旅費日当により実質的に保障がされていると評価されています。

②タクシー会社の事件(東京地裁 令和6年11月29日)

タクシー乗務員の歩合給の該当性が争われた事件です。歩合給は営業収入(水揚高)に応じて算出される仕組みであり、裁判所は「営業収入という労働者の成果に応じて一定比率で定められている」として、出来高払制賃金にあたると判断しました。労働者側は「営業収入と歩合給の額が正比例していない」「勤務日数という成果以外の要素が計算に影響している」とも主張しましたが、これらの主張は認められていません。

③運送会社の事件(令和7年3月27日)

こちらも運送会社のドライバーの歩合給が争点となった事件で、上記と同様、歩合給が出来高払制賃金にあたると判断されています。引っ越し会社の事件の後に出された判決でありながら、あまり大きく取り上げられていない印象があります。

3.何が判断を分けているのか

引っ越し会社の事件と、その後の3つの判決を比べると、共通して問われているのは「その賃金が、労働者の成果(売上や作業量)に応じて、実質的に増減する仕組みになっているかどうか」という点に集約されます。

  • 名称が「歩合給」「出来高給」であっても、成果に応じて金額が変動する仕組みになっていなければ、出来高払制賃金とは認められない
  • 反対に、売上や営業収入に所定の割合を乗じて算出される仕組みが実際に機能していれば、厳密な比例関係までは求められず、出来高払制賃金として認められやすい
  • 労働基準法27条の保障給についても、日額の基本給など実質的な保障があるかどうかが、あわせてチェックされる

つまり、「歩合給という名前を付けているかどうか」ではなく、「実際にどう設計され、どう運用されているか」が問われているということです。

まとめ ~社長さんに知っておいてほしいこと~

引っ越し会社の事件のインパクトが大きかったこともあり、「ドライバーの歩合給はもうリスクが高い」という声を耳にする機会が増えました。たしかに、成果と連動しない見せかけの歩合給には、大きなリスクがあります。

しかし、今回ご紹介したように、引っ越し会社の事件の後にも、運送会社やタクシー会社の歩合給を出来高払制賃金と認める判決が続いています。こうした判決は、引っ越し会社の事件ほど大きく取り上げられていないため、「歩合給は一律に否定される」という情報だけが独り歩きしている面があるように感じます。

もちろん、これらの判決があるからといって、歩合給が100%認められるわけではありません。売上や成果と実際に連動する仕組みになっているか、保障給が確保されているか、賃金規程に明確に位置付けられているか。こうした点を一つずつ丁寧に設計してこそ、はじめて出来高払制賃金として認められます。

有名な一つの判決だけを見て、「ドライバーの歩合給はもう一律に使えない」と結論づける必要はありません。制度をどう設計し、どう運用するか。ここが、これからの運送会社の賃金制度を左右する分かれ目になりそうです。