なぜ運送会社には歩合給裁判が多いのか?

なぜ運送会社には歩合給裁判が多いのか?

「また運送会社が、残業代の未払いで訴えられたらしいよ…」

こんなニュース、最近よく耳にするようになってきました。実は、運送業界は「歩合給裁判」が圧倒的に多い業界のひとつです。

「うちの会社はドライバーにしっかり払っている」「昔からこの給与体系でやってきた」——そう思っている方こそ、ぜひ一度立ち止まってこの記事を読んでみてください。

今回は、なぜ運送業で歩合給裁判が多発するのか、そして裁判を避けるために会社が今できることについて、詳しく解説します。

ドライバーの給料は「普通」じゃない

まず大前提として理解しておきたいのが、ドライバーの給料は「普通の社員」とはまったく異なる、という点です。

一般的な社員の場合、基本給や役職手当、職務手当、資格手当といった「固定された金額」で給与が構成されています。月によって大きく増減することはありません。

一方、ドライバーの給料には走行距離や配達件数に応じて増減する「歩合給」が多く含まれています。これは非常に特殊な賃金制度であり、この特殊性こそが後述するさまざまな問題の根本にあります。

残業代の「計算方法」がまったく違う

歩合給をめぐる裁判が多発する大きな理由のひとつが、残業代の計算方法にあります。固定給と歩合給では、残業代の算出方法がまったく異なるのです。

具体的には、残業単価の算定基礎に含める金額や掛け率が違います。そしてその結果として生まれる差額は、決して小さくありません。

固定給で計算した残業代と歩合給で計算した残業代を比較すると、1か月で15万円、3年分では560万円、5年分にもなると1,000万円近い差額が生じることもあります。

会社側としては「自社の賃金制度は歩合給だ」と認めてほしいところです。しかし、それを裁判で主張するには、あるひとつの条件が絶対に必要になります。

「これは歩合給です」ときちんと伝えていますか?

残念ながら、裁判に発展するケースの多くで、「これは歩合給ですよ」とドライバーにはっきり説明されていないことが問題となっています。さらに、賃金規程や雇用契約書に「歩合給であること」の記載がない場合も少なくありません。

その結果、裁判では「実質的に固定給とみなされる」と判断されることがあります。つまり、会社側がどれだけ歩合給のつもりであっても、それを証明する「書類と説明」がなければ、会社の主張は通らないのです。

だからこそ重要なのは、「この手当は歩合給です」とドライバーに丁寧に説明し、その内容を賃金規程や雇用契約書に明記しておくことです。これが、歩合給を歩合給として法的に認めてもらうための最低条件です。

「説明」と「記録」が会社を守る

歩合給を採用すること自体は、決して悪いことではありません。むしろ、売上や走行本数によって成果が明確に変わる運送という仕事の性質上、合理的な賃金制度と言えます。

しかし、その制度を「活かす」ためには、「説明」と「記録」が欠かせません。「昔からこうしてきた」という慣習だけでは、もはや会社を守ることはできない時代になっています。

賃金規程や雇用契約書を今一度見直し、歩合給であることの根拠をきちんと文書化する。採用時や賃金改定時には、ドライバーへの丁寧な説明と合意を取り付ける。こうした地道な取り組みの積み重ねが、将来の大きなリスクを未然に防ぐことにつながります。

「うちは大丈夫」と思っているうちに、気づいたときには裁判沙汰になっていた——そんな事態を避けるためにも、ぜひ今日から制度の整備を始めてみてください。