「ベースアップ評価料」から見えてくる、運送業界『適正原価』への備え方

「ベースアップ評価料」から見えてくる、運送業界『適正原価』への備え方

先日、顧問先の歯科医院の院長先生とZoomでお話ししていた際、興味深い話題になりました。医療機関の診療報酬本体はなかなか上がらない一方で、スタッフの待遇改善のための「ベースアップ評価料」は、比較的ハイペースで引き上げられているとのこと。国としても、医療現場で働く方々の処遇改善に本腰を入れ始めた、ということなのだと思います。

この話を聞きながら、少し的外れかもしれませんが、こんなことを考えました。

「引き上げの方向性がある程度見えているのであれば、医療機関側は、その引き上げを待たずに先駆けて給与を上げ、スタッフを確保するという戦略もあり得るのではないか」

もちろん、ベースアップ評価料が実際に上がったタイミングで給与を引き上げるのが通常の対応です。ただ、半年でも先んじて給与水準を引き上げ、人材確保で優位に立つという考え方も、経営戦略としては十分検討に値するのではないかと感じました(もっとも、先に高い給与で採用してしまうと、本格導入時にさらに賃金を積み増す必要が出てくる、という課題も同時に浮かびます)。

そして、このやり取りをしながら私が本当に考えていたのは、実は運送業界のことでした。

2028年度、いよいよ「適正原価」が導入される

トラック新法の枠組みの中で、2028年度には「適正原価(最低運賃)」が導入されます。これにより、運送会社はドライバーの賃金を引き上げる必要性に直面します。

ここで重要なのが、適正原価とベースアップ評価料の決定的な違いです。

ベースアップ評価料は、上がった分を基本的にスタッフの賃金アップに充てる仕組みです。一方、適正原価は(そもそも運賃が上がらない会社もあるかもしれませんが)、上がった分をすべてドライバーの賃金に充てる義務はありません。つまり、どの分野の強化に原資を振り向けるかを、各社が自社の判断で決められるということです。

これは裏を返せば、「今のうちに、どこに投資するかを考えておく必要がある」ということでもあります。

適正原価は「タリフ表」では示されない

現時点で分かっている情報(あくまで確定ではありませんが)によると、標準的運賃には会社が得るべき「適正な利潤」が含まれていましたが、適正原価にはこれが含まれていません。つまり、運賃交渉の場面では「適正原価+自社が得るべき利益」を自社で考えて交渉に臨む必要があります。

さらに、適正原価は標準的運賃のような運賃表(タリフ表)の形で提示されるのではなく、各社のデータを算定式に入力して算出する方式になる見込みです。

これはつまり、原価計算に近い作業を自社で行いながら、そこに安全確保のためのコストや事業継続に必要な経費を積み上げて交渉する、という実務が求められるということです。

残された時間は「1年半」

これだけの準備を、今後わずか1年半程度のうちに行い、さらにドライバーの確保・定着のための賃上げを他社に先駆けて実行していく必要があります。

トラック新法は、運送業界にとって10年に1度と言える大きなチャンスです。しかし、それはすべての運送会社にとってのチャンスではありません。準備を進めた会社と、様子見をした会社の間で、大きな差がつくはずです。

時間はあるようで、実はありません。

  • 適正原価に関する情報収集
  • 自社の車両ごとの原価計算(簡易版でも可)の習慣化

この2つを、今すぐ始めることをお勧めします。