2026年7月15日、厚生労働省が令和7年度「過労死等の労災補償状況」を公表しました。毎年この時期に発表される統計ですが、今回もトラック運送業に関わる立場として見過ごせない内容でしたので、詳しくご紹介したいと思います。
全体の状況
まず全体感として、過労死等に関する請求件数は6,212件(前年度比1,402件増)、支給決定件数は1,310件(前年度比5件増)で、うち死亡・自殺(未遂を含む)は145件でした。請求件数の大幅な増加は、労働者側の権利意識の高まりや、労災認定基準の周知が進んできたことが背景にあると考えられます。
脳・心臓疾患:道路貨物運送業が圧倒的トップ
今回特に注目したいのが、脳・心臓疾患、いわゆる過労死ライン系の疾患に関する統計です。
請求件数は1,254件(前年度比224件増)で、うち死亡は303件(前年度比48件増)。支給決定件数は217件(前年度比24件減)で、うち死亡は67件(前年度と同数)でした。
業種別(大分類)で見ると、請求件数は「運輸業、郵便業」が257件で最多です(次いで「サービス業(他に分類されないもの)」166件、「建設業」164件)。支給決定件数も「運輸業、郵便業」が64件で最多となっています。
さらに業種別(中分類)まで掘り下げると、請求・支給決定ともに「道路貨物運送業」が最多(請求179件、支給決定50件)という結果でした。運輸業、郵便業全体の請求件数257件のうち、実に約7割が道路貨物運送業ということになります。
職種別で見ても同様の傾向です。職種別(大分類)では「輸送・機械運転従事者」が請求231件・支給決定55件で最多。さらに職種別(中分類)まで見ると、「自動車運転従事者」が請求215件・支給決定53件と、いずれも圧倒的なトップでした。
なお、時間外労働時間別の傾向を見ると、支給決定件数は評価期間2~6か月平均で「月60時間以上80時間未満」が48件と最も多く、いわゆる過労死ラインの水準での発症が依然として多いことがうかがえます。
私見(1)精神疾患の労災も、他人事ではなくなってきている
今回のデータは脳・心臓疾患が中心ですが、あわせて考えておきたいのが精神疾患の労災です。
一年前に公表された令和6年度のデータでは、精神疾患の労災支給決定件数が1,055件となり、統計を取り始めて以来初めて1,000件を超え、過去最多を更新しました。長時間労働だけでなく、パワーハラスメントやカスタマーハラスメントを原因とする労災も年々増加傾向にあります。
トラック運送業も決して例外ではないと感じています。荷主との関係、長時間の荷待ち、人手不足による一人当たりの負担増など、ドライバーのメンタルに影響を与えかねない要因は現場に数多く存在します。「うちは身体的なきつさはあっても、メンタルは大丈夫」と考えている経営者の方も、そう言い切れる根拠を今一度確認していただきたいところです。今後は身体面の管理に加えて、精神面への配慮もセットで求められる時代になってきていると感じます。
私見(2)労災認定は「ゴール」ではなく「入口」である
もう一つ、実務者として強調しておきたいのが、労災認定はあくまで手続きの入口であり、そこで話が終わるわけではないという点です。
労災保険からの給付は、治療費・休業補償・遺族年金などをカバーしてくれますが、慰謝料や逸失利益までは補償の対象になりません。
つまり、労災に認定された後、その差額分について、会社が民事上の損害賠償責任を問われる可能性があるということです。実際、死亡事案の損害賠償額の相場は、慰謝料・逸失利益を合わせて数千万円から一億円を超えるケースも珍しくありません。会社としては、労災保険から給付が出たからそれで終わり、というわけにはいかないのが実情です。
こうしたリスクに備えるためにも、日頃からの適正な労働時間管理が欠かせません。特にドライバーの場合、次のような記録を客観的な形できちんと残しておくことが重要です。
- 運転時間
- 荷待ち時間
- 荷役時間
- 休憩時間
デジタルタコグラフやドライブレコーダーなどを活用し、記録を徹底しておくことは、万が一の際に会社を守る材料になります。逆に、記録が曖昧なまま「実際はちゃんと休憩を取らせていた」と口頭で説明しても、証拠がなければ会社側に不利な事実認定がされてしまうリスクが高まります。
まとめ
過労死等の労災補償状況において、道路貨物運送業・自動車運転従事者が請求・支給決定ともに突出して最多であるという事実は、業界全体として重く受け止める必要があります。
「記録を残す」という地味な作業は、日々の業務の中では後回しにされがちですが、これからの時代、経営を守るための最重要事項の一つだと考えています。労働時間管理の体制について不安のある方は、この機会にぜひ一度見直しをおすすめします。
