多重下請けを終わらせるのは「規制」ではなく「適正原価」だ

多重下請けを終わらせるのは「規制」ではなく「適正原価」だ

〜2次請け制限が効かない理由と、適正原価が変える物流の未来〜

「2次請けまでの制限、始まったけど……正直、あまり変わってないな」

そう感じている方、多いのではないでしょうか。

今年(2026年)4月にスタートした委託次数の制限。再委託は2回まで、という努力義務です。

でも現場を見ていると、多重下請けの構造はまだほとんど変わっていません。

なぜ変わらないのか。そして、何があれば本当に変わるのか。

今回は、この問いに対する私の考えをお伝えします。

1. なぜ2次請け制限は「効かない」のか

理由はシンプルです。「努力義務」だからです。

努力義務とは、「なるべくそうしてください」というルールです。

違反しても直接の罰則はありません。

しかし、もっと根本的な問題があります。

多重下請けが横行してきた本当の原因は、「下請けの段数」ではなく「運賃」にあります。

元請けが荷主から原価割れの運賃で受注する。

そのしわ寄せを下に押し付けるために、4次請け・5次請けと潜っていかざるを得ない。

この構造そのものを変えなければ、何段制限しても抜け道が生まれます。

「下請けの段数を制限する」だけでは、根っこには届かないのです。

2. 適正原価とは何か──よくある誤解を解く

ここで、適正原価についての重要なポイントを確認します。

適正原価について、「荷主が払う運賃の下限」と誤解している方が少なくありません。

しかし、正確には違います。

適正原価とは、実際に運送を行う会社(実運送会社)が受け取る金額の下限です。

燃料費・人件費・車両の減価償却費・安全確保のための諸経費など、事業を継続するために通常必要なコストを国が積み上げて算定し、「この水準を下回る運賃での取引は禁止」とするものです。

つまり、「荷主が払う金額」ではなく「実際に運ぶ会社が受け取る金額」が守られる制度です。

この違いが、多重下請け構造に対して決定的な意味を持ちます。

3. 適正原価が「多重下請けを終わらせる」メカニズム

では、なぜ適正原価が多重下請け構造を解消に向かわせるのか。

仕組みを順番に説明します。

① 実運送会社は適正原価以上を受け取らなければならない

法律で義務化されるため、実運送会社が適正原価を下回る運賃で仕事を受けることは法令違反になります。

② 下請けの階層が増えるほど、コストが積み上がる

2次請け・3次請けと階層が増えるたびに、それぞれの事業者が手数料を受け取る必要があります。

実運送会社が適正原価を受け取るためには、その上の階層がそれぞれコストを上乗せしていく必要がある。

実運送が適正原価100とすると、

3次請け経由 → 2次請けは110、1次請けは120、荷主は130以上払う必要がある

5次請け経由 → 同様に積み上がり、荷主が払う金額は大幅に膨らむ

③ 荷主が「多重下請けを嫌う」ようになる

そうなれば、最も困るのは誰か。

荷主自身です。

「5次請け・6次請けのような構造を続けていると、自分たちが払うコストが爆発的に増える」

荷主がそれを理解したとき、強い意向が生まれます。

「余計な下請けに回すな。コストが跳ね上がる」

これまでは、荷主にとって多重下請けにはそこまで意識を向けなくても良い仕組みでした。

しかし適正原価が入れば、多重下請けは「自分たちのコストを膨らませる迷惑な仕組み」に変わります。

規制で縛るのではなく、経済合理性が構造を変える。

これが、適正原価が多重下請けを終わらせる本当のメカニズムです。

4. 2次請け制限と適正原価、この2つはセットで機能する

今年4月の2次請け制限は、方向性は正しい制度です。

ただ、単独では根っこまで届かない。

一方、適正原価は「実運送会社が受け取る金額の下限」を定めることで、多重下請け構造を経済合理性から崩します。

この2つが組み合わさったとき、業界の構造は本質的に変わり始めます。

  • 2次請け制限 → ルールで上限を設ける(努力義務・現状は効果限定的)
  • 適正原価  → 経済合理性で構造そのものを変える(2028年度施行予定)

2028年度の適正原価スタートが近づくにつれ、荷主も運送事業者も、取引の構造を見直さざるを得なくなっていきます。

5. 経営者として今からやるべきこと

適正原価の詳細はまだ確定していません。

しかし、「多重下請けが経済合理性から成り立たなくなる」という方向性は、すでに見えています。

今からやっておくべきことを、3点に絞ってお伝えします。

① 自社が「実運送」なのか「利用運送」なのかを再確認する

適正原価の保護対象は実運送会社です。

自社の事業がどの位置づけにあるかを整理しておくことが、制度への対応の出発点になります。

② 自社の原価を「数字」で把握する

適正原価の算定方式は原価積み上げ型が有力視されています。

「うちの原価はいくらか」を答えられる会社が、荷主との交渉で圧倒的に有利になります。

③ 取引先との契約・委託構造を点検する

現在の取引が何次請けにあたるか、書面での合意があるか、附帯作業の対価は明記されているか。

適正原価が施行される前に、契約の現状を整理しておきましょう。

まとめ

  1. 2次請け制限の方向性は正しいが、努力義務のため現状は効果が限定的です。
  2. 多重下請けの根本原因は「運賃構造」にあり、段数制限だけでは解決しません。
  3. 適正原価は「実運送会社が受け取る金額の下限」を定めるものです。荷主が払う金額ではありません。
  4. 下請けの階層が増えるほど荷主のコストが膨らむため、荷主自身が多重下請けを嫌うようになります。
  5. 2次請け制限と適正原価がセットになったとき、多重下請け構造は本質的に解消に向かいます。

ご不明な点やご相談は、お気軽にお問い合わせください。

引き続き、最新情報と実務に役立つ情報をお届けしてまいります。