〜「目安」から「下限」へ。運賃の常識が変わります〜
「運賃をもう少し上げてほしい……」
そう荷主に言いたくても、なかなか言い出せない。
そんな声を、現場でよく聞きます。
でも、これから変わります。
「言いたくても言えない」から「言わなければならない」時代へ──。
2025年6月に成立した「トラック適正化二法」。
その核心にある「適正原価」の告示制度が、いよいよ動き出しています。
今回は、この制度の概要とスケジュール、そして経営者が今からやっておくべきことを整理してお伝えします。
1. 「適正原価」とは何か
これまでの「標準的運賃」は、あくまでも参考指標でした。
使うかどうかは事業者の判断次第、強制力はなし。
結果として、実勢運賃との間には大きな落差が生まれ続けてきました。
今回の「適正原価」は、まったく性格が異なります。
燃料費・人件費・車両の減価償却費・輸送安全確保のための諸経費・公租公課など、事業を継続するために通常必要なコストを国が積み上げて算定し、
「この水準を下回る運賃での取引は禁止」とする制度です。
従来の「標準的運賃」との違いをひとことで言えば、こういうことです。
標準的運賃 → 「この運賃を参考にしてください」(任意・強制力なし)
適正原価 → 「この水準を下回ってはなりません」(義務・違反で行政指導)
「目安」から「下限」へ。この一言に、制度の本質があります。
2. 算定方式は「算定式」が有力──タリフ方式ではない
現在、国交省は適正原価の算定方式を検討中です。
注目すべきは、その「形」です。
現行の標準的運賃のような距離・時間ベースの運賃表(タリフ方式)ではなく、原価を積み上げる算定式が有力視されています。
算定に含まれると予想されるコスト項目の例は以下のとおりです。
- 燃料費
- 人件費(全産業平均水準)
- 車両の減価償却費
- 輸送安全確保のための諸経費
- 委託手数料
- 事業継続に必要な投資の原資
- 公租公課
算定式が採用された場合、「自社のコストを把握・説明できる会社」と「できない会社」の間に、荷主との交渉力で大きな差が生まれます。
これは、今後の経営にとって非常に重要なポイントです。
3. スケジュール──いつ、何が起きるのか
法律では「公布から3年以内に告示」と規定されています。
公布が2025年6月ですから、期限は2028年6月まで。
ただし、業界内では以下のスケジュールが有力視されています。
- 2025年6月 トラック適正化二法 成立・公布
- 2026年1〜2月 国交省による運送実態調査(全事業者・回答義務あり)完了
- 2026年内 適正原価の原案取りまとめ(見通し)
- 2027年春頃 告示・公布(1年間の周知期間を確保するための見通し)
- 2028年度 適正原価制度スタート(見通し)
実際に、国交省はすでに今年(2026年)1〜2月、全運送事業者を対象にした実態調査(回答義務あり)を実施しました。
適正原価を算定するためのデータ収集は、もう始まっているのです。
「2028年までまだ時間がある」は危険な楽観論です。
4. 経営者が今からやるべき3つのこと
制度の詳細はまだ不確定な部分も多いです。
しかし、方向性は明確です。「安くてナンボ」の時代は、制度として終わりに近づいています。
今からやっておくべきことを、3点に絞ってお伝えします。
① 自社の原価を「見える化」する
1台あたりの燃料費・人件費・車両費・管理費などを整理してください。
「うちは原価なんて計算したことない」という会社こそ、今が動き時です。
根拠のある数字がなければ、どんな算定式が示されても対応できません。
② 荷主との契約・運賃体系を点検する
附帯作業・荷待ち時間がサービスとして吸収されていないか、確認してください。
2025年4月施行の改正貨物法により、運送契約時の書面交付と「運賃」「附帯業務料」の明記が義務化されています。
契約の現状を整理しておくことが、適正原価への対応の土台になります。
③ 情報のアンテナを立てておく
2026年内にも国交省から具体的な算定方式が示される見通しです。
その内容によって、荷主との交渉に使える「根拠」も変わってきます。
情報が出たら即アクションできるよう、今から準備を整えておきましょう。
まとめ
- 「適正原価」は法的拘束力を持つ、これまでとはまったく異なる制度です。
- 算定方式は原価積み上げ型の算定式が有力視されており、自社コストの把握が急務です。
- 制度スタートは2028年度の見通しですが、国交省の実態調査はすでに完了しています。
- 「自社の原価の見える化」「契約の点検」「情報収集」を、今すぐ始めましょう。
ご不明な点やご相談は、お気軽にお問い合わせください。
引き続き、最新情報をお届けしてまいります。
