適正原価、いよいよ制度設計へ 第1回検討会の中身を読み解く

適正原価、いよいよ制度設計へ 第1回検討会の中身を読み解く

2026年7月17日、国土交通省の「適正原価の設定に向けた有識者検討会」の第1回会合が開催されました。トラック運送業に関わる方であれば、「適正原価」という言葉自体はすでに耳にしていることと思いますが、今回はその第1回検討会で示された資料をもとに、制度の中身を少し詳しく読み解いてみたいと思います。

なぜ今、適正原価なのか

トラック運送業は営業収入20兆円を超える規模の産業でありながら、事業者の99.9%が中小企業という構造を抱えています。近年の経営状況を見ると、赤字企業の割合は年度によって48%から63%と、常に半数近くが赤字という厳しい状態が続いています。特に車両10両以下の小規模事業者では営業利益率がマイナス2.3%という数字も示されており、規模が小さいほど収益性が厳しいという傾向がはっきり表れています。

さらに深刻なのが、コスト上昇分の価格転嫁が進んでいない実態です。中小企業庁が2026年3月に行った調査では、調査対象32業種のうち、トラック運送業は「価格転嫁してもらえている状況」で31位、発注側としての「価格転嫁している状況」で32位と、ほぼ最下位という結果でした。荷主に対する交渉力の弱さが、データとしてはっきり裏付けられた形です。

こうした構造的な問題に対応するために導入されるのが、「適正原価」制度です。

「標準的運賃」との決定的な違い

これまでの「標準的運賃」は、あくまで運賃交渉に臨む際の参考指標であり、法的な拘束力はありませんでした。実際、令和6年度の実態調査では、標準的運賃と同水準の運賃を概ね収受できている事業者は全体の53%にとどまっています。

今回の「適正原価」は、これとは性質が異なります。令和7年6月に成立した貨物自動車運送事業法等の改正により、トラック運送事業者は、自ら貨物を運ぶときも、他の事業者に運送を委託するときも、国が定める「適正原価」を継続して下回らないようにすることが法律上の義務となります。これを継続的に下回った場合は法令違反となり、5年ごとに行われる事業許可の更新が認められなくなる可能性がある、という非常に重い制度です。

なお、標準的運賃には「適正な利潤(事業報酬)」が含まれていましたが、適正原価には利潤は含まれません。実際に荷主等から収受すべき運賃・料金は、「適正原価+適正な利潤」という水準になる、という整理がなされています。この点は実務上、混同しやすいところなので注意が必要です。

算定式のイメージ

第1回検討会では、適正原価をどのような形で示すかについても方向性が提示されています。これまでの標準的運賃のように運賃表(タリフ表)で示すのではなく、事業者ごとの総稼働時間や総走行距離等を代入すれば適正原価を導出できる「算定式」を国が示し、時間あたり固定費やキロあたり変動費といった単価を、地域・車種・車格ごとに公表する、という設計が想定されています。

算定式のおおまかなイメージとしては、次のような構成になります。

  • 運賃原価(時間あたり固定費×総稼働時間+キロあたり変動費×総走行距離)
  • 委託手数料(傭車に委託した運送の運賃原価に手数料率を乗じたもの)
  • 料金原価(時間あたり料金×総稼働時間)
  • 燃料サーチャージ(燃料価格と基準価格の差×使用量)
  • 実費(高速道路利用料等)

これらを合算したものが適正原価となる、というイメージです。また、受注(収受)と発注(支払)とでは事業者に課される義務の対象が異なるため、算定式もそれぞれ区分して示すことが検討されています。

構成要素の中には、標準的運賃にはなかった新しい項目も加わる方向です。特に注目したいのが、「輸送の安全確保のために必要な経費」(任意保険、ドライブレコーダー、デジタルタコグラフ等)と、「事業を継続して遂行するために必要不可欠な投資の原資」(人材確保・育成、労働環境改善、BCP関連投資等)という2つの項目です。これらが独立した構成要素として新設される見込みであることから、安全投資や将来への投資を削ってコストを下げる、という経営が構造的にできなくなる制度設計を目指していることがうかがえます。

今後検討される主な論点

第1回検討会の資料では、今後詰めるべき論点も具体的に示されています。実務者として特に気になるものを挙げると、次のとおりです。

  • 適正原価を設定する事業種別(一般貨物のほか、特定貨物・軽貨物にも設定するか)
  • 車型・車種の区分(現行の4車種区分の見直しの要否)
  • 地域の単位(現行10ブロック区分の妥当性、同一ブロック内の都道府県格差の扱い)
  • 実車率の設定(標準的運賃は50%で計算しているが、取引実態と乖離しているとの指摘あり)
  • 物流効率化のインセンティブをどう損なわないか(効率化で稼働時間が減ると適正原価も下がってしまうという構造的な課題)
  • 適正原価の算定に用いる期間(1年間とする案が示されている)
  • 多重下請構造における末端の実運送事業者への適正原価の担保方法

特に実車率の見直しは、標準的運賃が現場の実態と乖離しているという長年の指摘を踏まえたものであり、今後の議論の行方が注目されるところです。

今後のスケジュール

  • 第1回(7月17日):論点提示(今回ご紹介した内容)
  • 第2回・第3回(8~9月):関係者ヒアリング及び個別論点の検討
  • 第4回(10月):論点整理
  • 第5回(11月):提言案骨子の提示
  • 第6回(12月):提言案のとりまとめ

その後、物流政策推進会議・運輸審議会での審議を経て「適正原価」が告示される流れとなります。なお、この検討会では適正原価の「具体的な金額」については議論しない方針が示されており、あくまで制度設計・算定の枠組みを整理することが中心となる見込みです。

実務者としての所感

標準的運賃の時代は、「参考にできるなら使う」という位置づけの制度でした。しかし今回の適正原価は、「下回れば事業許可が更新されない」という法的な重みを持った制度です。トラック事業者としては、荷主との運賃交渉のあり方はもちろんのこと、自社の原価をどう正確に算出し、把握するかということが、今まで以上に問われることになりそうです。

12月の提言とりまとめに向けて、検討会の議論は今後さらに具体化していくものと思われます。引き続き動きを追いながら、実務に役立つ形で情報をお伝えしていきます。