休日に出てきて1日中洗車。気持ちはありがたいけど……

休日に出てきて1日中洗車。気持ちはありがたいけど……

運送会社に関わっていると、こんな光景に出会うことがあります。休日にもかかわらず、会社に自主的に出てきて、自分のトラックを1日中ピカピカに洗車しているドライバーさんです。

こういった方は決まってこうおっしゃいます。「俺は好きで来ているんだから、仕事扱いにしなくていいよ!」と。車への愛着、自分のトラックへのこだわり——その気持ちは十分に伝わります。経営者の立場からすれば、正直ありがたい話でもあります。

しかし、その「ありがたい気持ち」をそのまま受け入れてしまうのは、実は経営上のリスクを抱え込むことになりかねません。本人の善意とは裏腹に、会社が後々大きな問題に直面する可能性があるのです。今回は、この「休日洗車」にひそむリスクについて、少し立ち止まって考えてみたいと思います。

リスク① 労働災害のリスク

まず見落とせないのが、労働災害のリスクです。洗車中にトラックの上に乗って作業することもありますし、足場が濡れた状態での高所作業は想像以上に危険です。万が一、転落などの重大事故が起きた場合「休日に自主的に来た」「本人の意思でやっていた」という事実があっても、会社の敷地内・会社の車両を使った作業中の事故であれば、労災認定される可能性があります。

労災が認定されれば、会社としての安全配慮義務が問われる場面も出てきます。「本人が好きでやっていたから」という言い訳は、残念ながら法的には通りにくいのが現実です。

リスク② 未払い残業代請求のリスク

もう一つが、未払い残業代請求のリスクです。「好きで来ているから仕事扱いにしなくていい」——その言葉を信じて黙認し続けた結果、後々トラブルの火種になるケースがあります。

労使関係が良好なうちは問題になりません。しかし、何らかのきっかけで関係がこじれたとき、状況は一変します。「あの休日の洗車は、会社から暗黙のうちに求められていた労働だ。会社も黙認していたではないか」——そう主張されてしまうと、会社側はその反論に相当の労力を要することになります。

しかも、未払い残業代の請求は過去にさかのぼって行われます。何年分もの「休日洗車の時間」が積み重なれば、決して小さくない金額になりえます。さらに、水道代・光熱費といったコストも、実は毎回かかっているわけです。「たまの洗車くらい」と軽く見ていると、気づかないうちに積み上がっているものです。

「今は大丈夫」が通用しない理由

「うちのドライバーに限ってそんなことはない」「長年の付き合いで、信頼関係ができている」——そう感じている経営者の方も多いと思います。その信頼関係が本物であることは、きっとそうなのでしょう。

しかし、労使関係はいつまでも同じ状態が続くとは限りません。給与への不満、人事上の決定、職場の人間関係の変化——さまざまなきっかけで、長年良好だった関係が一気に悪化することがあります。そしてトラブルになったとき、弁護士さんが出てきて過去の事実を洗い直す場面では「当時は仲が良かった」は何の防御にもなりません。

リスク管理とは「今うまくいっているから大丈夫」ではなく「万が一の場合に備えて手を打っておく」ことです。労使関係が良好な今だからこそ、きちんと整理しておく価値があります。

気持ちは受け取りつつ、行動はやめてもらう

では、どう対応すればいいのでしょうか。答えはシンプルです。本人の気持ちや車への愛情はしっかり受け止めたうえで、休日の自主的な出社・作業はやめてもらうよう、きちんと伝えることです。

「あなたの気持ちは本当にありがたい。でも万が一のことがあった場合、会社もあなた自身も困る事態になりかねない。だからこそ、休日の作業はやめてほしい」——そう正直に伝えることが、双方にとって最善の対応です。

感謝の気持ちと、リスク回避のためのルール。この二つは矛盾しません。むしろ、ドライバーを大切にしているからこそ、きちんと線を引く——それが経営者としての責任ある姿勢ではないでしょうか。

善意の行動がリスクになる前に、早めに一言伝えておく。それだけで、会社も社員も守ることができます。