判決をもらう勇気〜裁判まで戦う前に知っておきたい3つのリスク〜

判決をもらう勇気〜裁判まで戦う前に知っておきたい3つのリスク〜

未払い残業代の請求をめぐる労働トラブルは、近年増加傾向にあります。しかし、実際に裁判まで進む事例は少ないのが現実です。

正式なデータとして公表されているわけではありませんが、未払い残業代請求で訴えられた場合でも、裁判所の判決にまで至るケースは全体のごく一部にとどまるとみられています。多くのケースでは、当事者双方が話し合いの末に示談(和解)で解決しています。

なぜ示談で終わることが多いのでしょうか。理由はさまざまですが、「裁判に時間と費用がかかる」「勝訴できるかどうか不確かである」「できるだけ早期に解決したい」という双方の事情が重なることが多いようです。もちろん、お互いに早期解決を望むことが最大の要因と言えるでしょう。

ただし「示談に応じなければどうなるか」をきちんと理解したうえで戦略を立てることが重要です。裁判まで進んで判決をもらうことには、知っておかなければならない大きなリスクが存在します。今回は、特に会社側(使用者側)が知っておくべき代表的な3つのリスクについてお伝えします。

リスク① 事件名として会社名が半永久的に残る

裁判で判決が出ると、その判決は「○○事件」という形で記録されます。この「○○」には会社名が使われることが一般的です。判決文は判例データベースや法律雑誌などに掲載されるため、インターネット上でも検索できるようになることがあります。

つまり「未払い残業代請求で訴えられ、敗訴した会社」という事実が、会社の名前とともに半永久的に公の記録として残ることになります。求職者が企業を調べるのは今や当たり前の時代です。採用活動において不利に働く可能性は十分にありますし、取引先や金融機関との信頼関係にも影響を及ぼしかねません。判決という「記録」が残るリスクは、決して軽視できないものです。

リスク② 付加金の請求〜最大2倍の支払い命令リスク〜

労働基準法には「付加金」という制度があります。使用者が割増賃金(残業代)の支払い義務に違反した場合、裁判所は労働者の請求により、未払い額と同額の付加金の支払いを命じることができます。

すなわち、裁判所が「悪質な未払いがあった」と判断した場合、未払い残業代に加えて、さらに同額の付加金が命じられる可能性があります。実際にその全額が命じられるかどうかはケース・バイ・ケースですが、理論上は最大で「未払い額の2倍」を支払うよう命じられるリスクがあるということです。

示談であればこの付加金の請求を回避または軽減できる可能性が高いですが、裁判まで進んでしまうと付加金リスクが一気に現実のものとなります。金銭的な負担の観点からも、十分な覚悟が必要です。

リスク③ 遅延損害金〜在職中は年3%、退職後は年14.6%〜

未払い残業代には、遅延損害金(延滞利息)が発生します。在職中は年3%、そして退職後は年14.6%という高率の遅延損害金が適用されます。

裁判が長引けば長引くほど、この遅延損害金は積み上がっていきます。特に退職後の14.6%という利率は非常に高く、元の未払い残業代の金額が大きければ大きいほど、最終的な支払い総額がどれほど膨らむかは計り知れません。早期に解決していれば抑えられたはずのコストが、裁判の長期化によって雪だるま式に増えていく可能性があります。

覚悟を決めて戦うために〜リスクを正しく理解することが第一歩〜

以上、裁判まで進んで判決をもらうことで生じる代表的な3つのリスクをご紹介しました。

  • 事件名として会社名が半永久的に記録に残るリスク
  • 付加金として最大2倍の支払いを命じられるリスク
  • 退職後は年14.6%にのぼる遅延損害金が積み上がるリスク

もちろん、これ以外にもリスクはあるかもしれません。また、「それでも正々堂々と判決をもらいたい」という経営者の方もいらっしゃるでしょう。その気概は決して悪いことではありません。

ただ、戦うからには「どんなリスクが待っているか」をしっかりと把握したうえで、覚悟を決めて臨む必要があります。感情的に「とことん戦う!」と決断するのではなく、リスクを正確に認識したうえで最善の選択をすることが、経営者としての賢明な判断といえるでしょう。