2024年問題をきっかけに、コンプライアンス強化に踏み切った、ある運送会社の話です。
働き方改革の流れを受けて、社長は各ドライバーに走行本数の見直しを説明しました。多くのドライバーは「会社が変わろうとしているんだから」と理解を示してくれました。
ところが、1人だけ、どうしても納得できないドライバーがいました。理由は「走行本数が減ると、給料が減ってしまう」から。家庭の事情もあり、「いざ何かあっても、絶対に会社のせいにしませんから。全部俺の責任でいいので」と、強く申し出てきたそうです。
社長も、頑張ってくれているドライバーの生活を守りたいという思いから、他のドライバーへの配慮をしつつ、そのドライバー1人にだけ、少し長めの運行を任せることにしました。
数か月後、そのドライバーは居眠り運転で大きな事故を起こしてしまいます。ドライバー自身にも後遺障害が残る、深刻な事故でした。そして、代理人弁護士を通じて、会社に1億円を超える損害賠償請求が届いたのです。幸い、1億円の賠償保険に加入していたため事なきを得たそうですが、保険がなければ、会社の存続すら危うかったかもしれません。
「本人の同意」は、会社を守ってくれない
このケースで見落とされがちなのが、「ドライバー本人が了承している」ことは、法的な免罪符にはならないという点です。
たとえ本人が「俺の責任でいい」と言ったとしても、労働時間管理の責任は会社側にあります。特例として長時間労働を認めれば、それだけで36協定違反となるおそれがあります。しかも、この違反は1人・1か月だけでも成立してしまいます。
さらに、疲労の蓄積は事故リスクに直結します。今回のように事故が起きれば、未払い残業代請求のリスクも一気に表面化しますし、労働基準監督署と運輸局は「相互通報制度」でつながっているため、改善基準告示違反などを理由に、運輸局からの行政処分に発展する可能性もあります。
「良かれと思って」が、一番危ない
今回のケースで社長がしたことは、決して悪意のあることではありません。むしろ、ドライバーの生活を思いやった、優しい判断だったはずです。
しかし労務管理においては、この「良かれと思って」の特例こそが、最大のリスクになり得ます。1人に対して例外を認めた瞬間、会社全体のコンプライアンス体制に穴が空いてしまうからです。
2024年問題への対応を進める中で、「誰か1人だけ特別扱いをしていないか」「本人の同意を理由に、労働時間管理を曖昧にしていないか」、ぜひ一度、社内を振り返ってみてください。
