どの業界でも、今は人手不足が深刻な課題となっています。運送業界も例外ではありません。しかし、「どの業界も大変ですね……」と世間話で片づけられるような話ではないのです。運送業界が直面しているのは、単なる人手不足ではなく、会社の存続を左右するほど切実な問題です。
その背景にあるのが、通称「トラック新法」です。この法律の施行によって、運送業界はこれから大きな地殻変動を迎えることになります。そして、その変動の中で生き残れる会社と、そうでない会社がはっきりと分かれていきます。つまり、近い将来、運送業界は「勝ち組」と「負け組」に明確に二分されることになるのです。
適正原価制度が多重下請け構造を変える
トラック新法の目玉のひとつが「適正原価制度(最低運賃制度)」の導入です。これは、実際に荷物を運ぶ実運送会社が、適切な運賃をしっかりと受け取れるようにするための仕組みです。
これまで運送業界では、荷主から元請け、2次請け、3次請け、4次請け……と何層にも重なる多重下請け構造が当たり前のように存在していました。各層で手数料が引かれるため、実際に走るドライバーの手元に届く運賃は、荷主が支払った額からかなり低め金額になることも珍しくありませんでした。
ところが、適正原価制度が導入されると、この構造が根本から変わります。実運送会社がしっかりと適正運賃を収受しなければならなくなるため、これまでのように5次請け・6次請けという形で仕事を回し続けると、各層で適正運賃が積み上がり、荷主が最終的に支払う運賃が爆発的に膨らんでしまいます。
その結果、荷主はこう判断するようになります。「必要以上に下請けに回すな」「どうしても下請けを使うなら、手数料を引かずにそのまま回せ」。荷主自身が、多重下請け構造の解消を強く求めるようになるのです。これは業界にとって、数十年ぶりの大きな構造変化と言えるでしょう。
「自社で走れない会社」が負け組になる理由
この変化によって最も打撃を受けるのは、自社でトラックを走らせることができない運送会社、あるいは3次請け・4次請け・5次請けとして仕事を受け続けてきた会社です。
荷主が多重下請けを嫌うようになれば、当然ながら中間に入るだけの会社に仕事は回ってこなくなります。自社ドライバーがいない、自社トラックで走れないという会社は、仕事を取れなくなる可能性が高くなります。これが「負け組」の正体です。人手不足が単なる採用の悩みではなく、会社の死活問題に直結する理由がここにあります。
逆に言えば、多重下請け構造の上流に位置して、自社でしっかりとドライバーを確保し、自社で荷物を運べる体制を整えられた会社は、「勝ち組」に入ることができます。荷主からの直接取引や、上位の元請けポジションを確立することで、適正運賃をそのまま受け取れるようになるからです。
今すぐ動かなければ、チャンスを逃す
トラック新法は、運送業界にとって数十年に一度の大きなチャンスです。しかしそれは、すべての運送会社にとってのチャンスではありません。準備を整えた会社だけが、その波に乗れるのです。
他の業界と違い、運送業界においては「ドライバーを確保できるかどうか」が、勝ち組と負け組を決定的に分ける要因になります。製造業ならば機械化や自動化で人手不足をある程度補えるかもしれません。しかし、トラックを運転するのは人間です。ドライバーなしに、仕事は成り立ちません。
では、どうやってドライバーを確保するのか。答えは明快です。まず、他社に先駆けて荷主との運賃交渉に踏み出し、適正運賃をしっかりと収受することです。そして、その収益をドライバーへの待遇改善に還元することです。給与が上がり、働き方が改善されれば、ドライバーは集まります。そして、ドライバーが集まれば、仕事を自社で回せるようになり、多重下請け構造の上流に立てるようになります。
この好循環を、今こそ作り出すタイミングです。トラック新法という追い風を最大限に活かして、ドライバーの確保と営業力の強化に今すぐ取り組んでください。しっかりと準備を整えた運送会社には、間違いなく明るい未来が待っています。
