東京都トラック運送事業協同組合連合会(東ト協連)が発表した最新の運賃動向調査によれば、回答事業者の72.4%が「現在収受している運賃が標準的運賃より低い」と答えました。前回調査から1.5ポイントの悪化であり、運賃交渉の取り組みが進んでいるにも関わらず、環境は再び厳しさを増しています。
この数字を見て、ある種のやるせなさを感じるのは私だけでしょうか?東京という日本最大の経済圏でさえ、この現実です。地方に目を向ければ、状況はさらに厳しいと言わざるを得ません。
目次
交渉は増えても「認められた」が減っている
調査では、標準的運賃を届出済みの事業者のうち荷主への交渉を「実施した」割合が46.2%と、前回から10.5ポイントも増加しました。これは間違いなく前向きな動きです。一昔前には「値上げの話なんてとても切り出せない」という空気が業界全体を覆っていたことを思えば、事業者の姿勢は確実に変わってきています。
しかし、交渉して「認められた」割合は40.3%と、前回より7.2ポイントも減少しました。「継続交渉中」が37.5%、「認められなかった」が18.1%という結果が続きます。チャレンジする運送会社は増えたが、その先の壁はまだ高いようです。
交渉が進まない背景には、荷主側の「お金の余裕がない」という事情だけでなく、「値上げ交渉に対して一服感がある」という声も聞こえます。ただし、相変わらず厳しい状況が続くなか、粘り強く対話を続けるしか、いまは道がないでしょう。
地方の現実――標準的運賃の5割を下回るケースも
東京の調査結果でさえこの厳しさです。では、地方ではどうでしょうか?業界関係者の声を聞くと、地方では「標準的運賃の7割取れれば良い方」という実態があり、5割を下回るケースさえあるといいます。
標準的運賃は「全国一律の目安」として告示されていますが、その実勢との乖離は、都市と地方でまったく異なる様相を呈しています。東京のデータを「業界全体の話」と捉えることには、相当の注意が必要でしょう。
トラック新法と「適正原価」――標準的運賃の95%という数字
こうした状況の中、昨年「トラック新法」が成立しました。この法律の最大の柱のひとつが「適正原価」の導入です。国土交通大臣が定める適正原価を下回る運賃の収受を、事実上禁止する仕組みです。
2025年6月のインタビューにて、全ト協の寺岡副会長(現・会長)はこう述べています。「新たな運賃規制では(適正原価の)下限が、基準で定められる運賃(標準的運賃)の95%になりそうだと聞いている」。
業界の長年の悲願が、いよいよ制度として動き出そうとしています。
適正原価調査票と、その先にある大きな疑問
国交省は適正原価の設定に向け、全国のトラック運送事業者に「適正原価に関する調査票」を配布しました。当初はなかなか集まらなかったようですが、3月末の国交省の会見では6割の事業者から回答があったとのことで、相当数のデータが集まりつつあります。
さて、では一体「適正原価」はいくらに設定されるのか。ここが最大の焦点であり、難所でもあります。
標準的運賃の95%という水準が目標とされているとはいえ、実際の「適正原価」がどの水準で確定するかは、まだ誰にも分かりません。国交省のかじ取りは、まさにこれからが正念場です。
高すぎても低すぎても、困る人がいる
適正原価の設定は、極めてデリケートなバランスの問題です。
低すぎれば「何のための法律だったのか?」となります。地方の中小事業者が標準的運賃の5割程度しか得られていない現状を踏まえれば、現実に合わせた水準では業界の夢と希望を打ち砕くことになりかねません。ドライバーの待遇改善にもつながらず、担い手不足はさらに深刻化します。
一方、高すぎれば物価への影響が避けられません。トラックは「経済の血液」と呼ばれるほど、あらゆる商品・食品・資材の輸送を担っています。運賃が急激に上昇すれば、そのコストは製品価格に転嫁され、消費者の生活を直撃します。
特に心配されるのは、地方です。現状、地方では標準的運賃の7割でも「良い方」とされ、5割を切るケースもあるようです。それが一気に標準的運賃の95%まで引き上げられたとしたら、荷主企業や地域経済への影響は計り知れません。逆に段階的な適用とすれば、恩恵が届くまでに時間がかかります。どちらに転んでも、痛みを伴う移行期間は避けられないでしょう。
国交省はいま、この難題を抱えながら、慎重かつ大胆なかじ取りを求められています。
静観しながらも、期待せずにはいられない
正直なところ、今の段階では「静観するしかない」というのが実感です。適正原価の具体的な水準は、調査データの分析と関係各所との調整を経て、これから決まっていきます。結論が出るまで、我々にできることは多くはありません。
ただ、それでも期待せずにはいられません。トラック新法という制度の器は、ようやく整いました。まさに運送業界の悲願です。問題は、その中身がどれほど実態に即した、実効性のあるものになるかです。現場で汗をかき続けているドライバーや事業者のことを、数字の向こう側にいる生身の人間として政策に反映してほしいと願います。
東京の大都会でさえ7割が標準的運賃を下回っている。地方ではさらに厳しい。その現実から目を背けず、適正原価の設定に臨んでほしいと切に願います。
答えが出る日を、業界全体が固唾をのんで待っています。
